代表事例
中央線高架下プロジェクト
コミュニティづくりにはじまり、場づくり、そしてにぎわいが生まれる仕組みづくりへ。2012年にスタートし、リライト内のチームを横断しつつ、現在も続いている「中央線高架下プロジェクト」についてご紹介します。
コミュニティづくりにはじまり、場づくり、そしてにぎわいが生まれる仕組みづくりへ。2012年にスタートし、リライト内のチームを横断しつつ、現在も続いている「中央線高架下プロジェクト」についてご紹介します。
事業主 | 株式会社JR中央ラインモール |
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企画 | 株式会社リライト |
リーシング(六甲山、ローソン除く) | 株式会社リライト |
設計・監理 | 株式会社リライト建築・不動産事業部 |
施工 | 菊池建設株式会社 |
プロジェクトがスタートしたきっかけは、2010年11月、JR中央線三鷹〜立川間の高架化工事が完了したこと。これによって沿線の街が南北に分断された状態が解消されるとともに、全長9km、7万平米にもおよぶ広大な空間が生まれました。
こうした高架下空間の活用、中長期的な沿線価値向上を目指して、2012年にスタートしたのが「ののわプロジェクト」です。
近年、都心部を中心に行われている高架下開発は通常、賃料をアップすることで開発費を捻出します。たとえ郊外でも、駅型商業施設であればそうした方法も成り立つかもしれませんが、7万平米の大部分を占める駅間については難しいのが現実です。
そこで注目したのは「地域コミュニティ」。周辺に暮らす人たちに、高架下空間の活用や運営を自分ごととして捉えてもらい、一緒に“場”をつくっていくことはできないだろうか。そして、プロジェクトのゴールは、ハード・ソフトの両面において価値を高め、多くの人に「中央線沿線に住みたい」と思ってもらうこと。
第一のステップとして行ったのは、周辺の隠れた名所やお店を紹介する『エリアマガジン ののわ』の制作でした。特徴は、駅型商業施設に入居するナショナルチェーンストアではなく、地域の魅力的な個人店を中心に紹介したこと。
マガジンをきっかけに、自分が住んでいるひとつ隣の駅を散策してもらう。まずは、地域に暮らす人たちの回遊性を高めることを目指しました。
第二のステップとして、地域コミュニティに興味・関心の高い層を巻き込むため、トークイベントやフィールドワーク、食を通じたイベントを定期的に開催しました。イベントの登壇者は、中央線沿線で活躍するクリエイターやショップオーナーなど「地域のキーパーソン」が中心。エリアマガジンは「地域情報の発信」だけでなく、彼らとつながるための“ドアノックツール”としても活躍しました。
ちなみに、2012年10月以降、2年間で全35イベントを開催し、570名が参加。このほかボランティアの「地域ライター」ネットワークには100名以上が登録し、ウェブサイトには毎月5〜10件の記事がアップされるようになりました。
こうした取り組みを通じて、さまざまな地域活動や新たなコミュニティが生まれ、その受け皿となる場を求める機運が高まっていったのです。
2014年11月、地域共生型商業施設「コミュニティステーション東小金井」がオープンしました。
敷地は、JR東小金井駅から徒歩3分、高架下に約100メートル続く細長いスペース。東小金井駅は中央線で新宿から約20分、平均3万人/日と、新宿〜立川間では2番目に乗降客数が少ない駅。周辺は住宅地で、開発中ということもあり、のどかな雰囲気が漂っています。
コミュニティステーション東小金井には、地元の作り手5組による「atelier tempo(アトリエテンポ)」を中心に、物販や飲食店、フリーペーパーライブラリ、イベントスペースなどが入居。私たちリライトは企画・設計段階から関わり、現在は同施設の運営を行っています。
いわゆる従来型の「コミュニティスペース」は、少ない費用で誰でも使えるという前提があるため、閉鎖的で魅力のない空間になってしまいがちでした。さらに駅型商業開発は、事業費を捻出するため高い賃料設定をせざるを得ず、結果としてナショナルチェーンばかりになってしまう……。
そうした問題への回答として、私たちは「地域に暮らし、地域で営む」をキーワードに、周辺に暮らす人たちが主役になり、みんなでつくる地域共創型の商業施設を企画しました。
リーシングについても、計画段階から具体的にテナントを想定しヒアリングを重ね、想定される賃料収入から逆算し事業収支を組んでいます。また、45平米の区画を3組の作家でシェアするなど、個人商店でも出店できる方法を考えました。
地域ならではの魅力の発信することと、お金を稼ぐこと、その2つが両立できる新しい商業施設像を目指しました。
通常の商業施設では、貸し床面積の最大化を目指すため、結果的に過大な施設となってしまうことが多々あります。
コミュニティステーション東小金井では、建築可能面積=3000平米のうち床面積はあえて520㎡に抑え、必要最低限のコンパクトな内部空間を計画。また躯体を20フィートのコンテナ40個で構成することで、設計・施工期間を短縮、コストを大幅に削減しています。
内部空間をコンパクトにした代わりに、歩道との境界に白いフレームを設置することで、お店のにぎわいがあふれるような路地状の空地を。さらに敷地中央には大きな広場といった、たくさんの「余白」を設けました。
こうした半屋外空間はイベントやワークショップなどに活用され、高架下がさまざまな地域活動を受け入れる「パブリックスペース」になっているのです。
開業後も、施設運営に長期的にコミットするための仕組みとして、コミュニティ区画の一部(4区画、6テナント)に関しては、私たちがサブリースする形をとっています。
またオープン後の取り組みとしては、企画から当日の運営まで入居者が主体となって行う定期イベント「家族の文化祭」を企画しました。
家族の文化祭は、店舗前の路地スペースや広場を使ったマルシェで、施設のテナントだけでなく地元の作り手30組以上が参加。回を追うごとに来場者も増え、現在では5000人/日を集めるなど、大きなにぎわいを生んでいます。
当初は、事業主(JR中央ラインモール)が大部分の費用を負担していましたが、徐々に運営をテナント主体の体制に移行。事業主の費用負担を抑えることで、取り組み自体の持続可能性を高めています。
沿線価値向上に向けたエリアブランディングやコミュニティづくりの支援のみならず、商業施設の企画・設計、運営まで。一貫してプロジェクトに関わることで、テナントのみならず、地域を巻き込んだ新しいコンセプトの商業施設を実現することができました。
にぎわいのある場所には商いが生まれ、商いのある場所には豊かな空間をつくるための原資が生まれます。地域の魅力を発信し、かつ持続可能な共生型商業施設は、街の新しい「パブリックスペース」になりえると、私たちは考えています。
公共性のある“場”を行政が設置し、維持・管理していくことは、もはや難しくなりつつある時代。私たちは、こうしたプロジェクトを通じて、商業施設を含めた「これからのパブリックスペース」とは何か、考え続けていきます。